ぼくは循環器専門医だけど、心電図が読めない

どうも、たおらーです。循環器専門医の書く徒然草。

拘束後の肺動脈血栓症のニュースに触れて

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どうも、たおらーです。

肺動脈血栓症を扱う循環器内科医としての感想を述べたいと思います。あくまで記事からの情報で検討します。また、亡くなられた患者様、ご家族にはお悔やみ申し上げます。

 

いわゆるエコノミークラス症候群と呼ばれる病気は安静などで主に下肢の血流がうっ滞することにより血栓が生じます。その血栓がはがれ、右心房⇒右心室と移動し、最終的に肺動脈とよばれる血管につまります。そのことにより、胸痛、呼吸困難、最悪は本件のように突然死を起こします。エコノミークラスの狭い席で長い時間のフライトで血栓ができ、目的地について立ち上がろうとしたときに飛んでしまうということでエコノミークラス症候群と呼ばれるようになりました。

 

血栓症はいわゆるVirchowの3徴

・血流のうっ滞

・血管内皮細胞障害

・過凝固

の要因があるとできやすくなります。

ただ、いろいろ原因を探しても特定できない血栓症があることもまた事実です。

仮に同じように6日間拘束して安静にしたとしても臨床的に問題となる血栓症をきたす人もいればきたさない人もいると思います。

 

ただ、もちろん医療者としては「できるかもしれない」と認識し、できないようにすべきというのはもちろんのことと思います。

 

さて、この事件何点かポイントがあると思います。

①拘束が妥当であったか?

②やむを得ない拘束の場合の血栓対策

 

①拘束が妥当であったか?

と一言で言っても、開始する時期(拘束以外の手をいかに講じることができたか)、拘束の期間(薬剤調整などにより短期間にすることはできないのか)という疑問はあります。しかしこれらは記事からは判断できませんのでコメントは差し控えます。

 

記事中で気になる点としては「人を割けば」の部分です。現実的にはかなり大変だと推察します。

筆者は精神科病院に当直のお手伝いにいったことがあります。法律にのっとり、拘束を要する患者さんは日に複数回の診察、カルテ記載が義務付けられています。

40代の男性が身体拘束が必要と思われるくらい暴れている状況では屈強なナースマンがいても医療スタッフの外傷などのリスクは高いと思います。患者さんを守ること、スタッフを守ることそれはどちらも必要なことです。

 

②対策

・一般に拘束を要する際は「拘束の同意書」を取得する

たとえば私のような循環器内科医は心不全でくるしくて身の置き所のない患者さんをICUで治療するという場面があります。その際、複数の点滴やチューブ、あるいは人工呼吸器といった抜かれると命に係わる管が多くあります。なので多くの場合ご家族に書面で拘束の同意をいただきます。

本件はどうだったのでしょうか。もちろん同意書は免罪符ではありません。同意書があるから無策に拘束つづけていいはずもありません。

現実的にはどうすればいいのだろう。

 

血栓対策

飛行機に乗ったときに足の運動をしましょうといったVTRを見たことがあるかたもいると思います。病院では弾性ストッキングを着用したり、フットポンプを使用したりすることがあります。

病院さんがとられた対応はわかりませんが、精神科の場合なかなか難しいのかもしれません。

 

このような不幸な事故が起こらないようにしたいとは思いますが、判決はなかなか現実との齟齬もあるのかなという印象です。